皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「本当に忙しかったのと、携帯があると集中出来ないからって秀紀さんに没収されたりしてたんだ。今日は本当にたまたま…でもないか。後で秀紀さんにしこたま怒られるな。」
「……ごめん。」
「でも幸子だって連絡くれてないからな?人の事言えないからな?」
「そうだっけ?」
と、お互い軽くフフッと笑って黒川君が「またな。」とその場から離れて車に乗り込む。
車が発進するまで私はずっと手を振っていた。暗くて顔がよく見えない窓から、なんとなく彼も手を振ってくれた姿を見て、去っていく車を見えなくなるまでぼんやりと見届ける。
疲れたな。
とりあえず明日は学校休まないと…。
忘れていたわけではない入院をしてしまったお父さんを思い出しては、鍵もかけていないドアを開けて一人ぼっちを実感する。
綺麗とは言えない部屋を見渡し、お父さんの保険証を探していくと同時に軽く部屋の掃除をしていく。
居ない日が無かったお父さん。
どんなに暴れても、どんなに酔っても私を置いて出ていかなかったお父さんの姿が何処にもない。
「あ、保険証あった!」
何故か台所の引き出しに入っていた私とお父さんの保険証が入ったポーチを見つけて安堵するが、押し寄せるお金の不安。
入院代って…いくらするのかな…。
一括払いとかだったらどうしよう。
掃除をしていた手が止まり、敷きっぱなしの薄い布団に横になって頭の中で計算していくが、今日はもう考える頭が無いようだ。
歯磨きも顔も洗わず、そのままゆっくりと瞼がスーッと閉じていった。
夢の中で、内容は覚えていないけど黒川君が笑っていた。