皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました

「幸っちゃんそこに座ってこれ飲んで。」

ママさんがソファーの前のテーブルに冷たいお茶を置いてくれる。
お言葉に甘えてふかふかのソファーに座らせてもらった。
店主も、ダイニングテーブルの椅子に座って左手でお茶を持ちながら私の顔を見る。

「幸っちゃん、顔どうした?」
「え?」


お茶を飲もうとマスクを顎にずらした時に、店主がママさんを呼ぶ。


「おい、なんか冷やすもん持ってきてやれ。幸っちゃんの顔腫れてる。」
「え?幸っちゃん顔見せて。」


自覚は無かったがどうやら頬が腫れているらしい。心当たりはさっきのお父さんの拳しか考えられない。
鏡を見ていなかったから、完全に油断をしていた。


「ママさん大丈夫!大丈夫だから!」

顔を覗くママさんから顔を逸らしてマスクをつける。
完全に顔を出す日を間違えた。これじゃあ心配させるに決まってるじゃん、何してるの私。

店主のお見舞いの筈が、逆に迷惑をかけてしまう事に申し訳なく思う。


「…その傷はお父さんに?」

ママさんが私から少し離れて、同じソファーに座って声をかける。

「…違うよ。転んだだけ。」
「幸っちゃん…。」

お父さんから殴られる事なんて一度も話したことはない。
ただ父子家庭で、自分が働かなきゃいけないという事情は伝えていたが、お父さんの事は言ったことはない。

ただ、私の子供の時に服も顔も汚い私を何度も見かけた事があるらしく、気になっていたと前に話してくれた。



「だってお父さん、今入院してるから。肝臓が悪いんだって。私病院の帰りだから。」
「え?親父さん大丈夫なのか?」
「お酒止めないと駄目だって言われた。」


ギブスを付けながら店主が心配そうに聞いてくる。

「幸っちゃん他に身内は?頼れる大人っているのか?」
「………。」

流石に「うん」と言えないのは、後でボロが出そうだから。



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