皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
とりあえず他愛のない会話に、あっという間に時間が過ぎていて、そろそろ帰ろうと腰を上げる。
「私もう行くかな。もらった書類まだちゃんと頭に入れてないから。」
「あらそうなの?私外まで見送るわ。」
「幸っちゃん、俺はここで失礼するよ。良かったらいつでも来てくれな。」
流石に傷が痛いのだろう、店主は座った椅子から身体を動かせず、帰りの挨拶をする。
外靴を履いて、ママさんと外の出口まで一緒に歩いていると、ママさんが私の両手をギュッと握る。
「幸っちゃん。言いづらいかもしれないけど困った時や助けて欲しい時はちゃんと私達に言うのよ?お金とか手続きとか、幸っちゃんが良ければ私がするから。」
「…ママさん。」
「こんなに一生懸命頑張ってる貴方を私達は絶対見捨てません。」
「………。」
ギュッと握る手が暖かい。
私と同じくらいの手の大きさだけど、愛情に包み込まれるような優しい温もり。
お母さんって
こんな感じなのかな。
「とりあえず明日から学校行く前にいつも通り此処に寄ってちょうだい。お弁当作って待ってるからね。」
「ありがとう…ママさん。」
曇り空。
明日の予報は雨らしいが、雲と雲の隙間から見える青空。
まるで私の心のよう。
此処に来て良かった。二人の顔を見て勇気が湧いた。
よし、仕方ない。
なんとかしますか。
重く感じた書類の入ったリュックが、さっきよりも軽く感じて、ことわざ通り地に足をグッとつける。