皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
空腹でこなすファミレスのバイト。顔の傷を隠す為に、マスクをしたまま接客をする。
このご時世、マスクをしている店員が当たり前に存在していて良かった。
お客さんが注文したご飯を配膳する時に、出来上がった食べ物を思わず凝視してしまう。
あぁ、良い匂い。
ハンバーグドリアとか人生で一度も食べたことないんだけど。
ケチャップソースの匂いってなんでこんな食欲を増進させるわけ?
「…木村さん?」
「…はい?」
チーフがご飯運んで?とジェスチャーをして我に返る。
あぁダメだ。以前みたいにまた空腹で倒れそうになるのを、裏で隠れてお水をガブガブ飲んでいく。
早くバイトが終わってご飯を食べたい。
フラフラになりながら業務をこなし、バイト時間終了の20時に直ぐにタイムカードを押して外に出る。
く、黒川くん、ご飯を…
そう思いながらいつも連絡手段はLINEの筈が、思わず手っ取り早く済む為に電話をかける。
プルル…『おうお疲れ。』
ワンコールで出てくれた黒川君を神だと崇めたくなる声。
『お疲れ様でございます。お腹空いたのであります。』
『幸子が空腹になると戦時中の兵隊みたいなんだな。』
『欲しがりません勝つまではって言ってたら私一生ご飯食べられないじゃん。』
『どんだけ負けてんだよ。』
電話で話す内容はどうでもいいから早くご飯を食べたい。
『何食いたい?』
『炭水化物…。』
『希望が雑かよ。和洋中あるだろ。』
和洋中のメニューを、私が知るわけないでしょと突っ込む元気もない。
と、さっき見たハンバーグドリアを思い出して思わず、
『ハンバーグドリア…。』
と、答えてみる。
『よし、じゃあコンビニで買って幸子家で食おうぜ。俺もさっき仕事終わって一人で歩いてるから◯◯まで向かって。』
『はーい。』
はーい?
あれ?今幸子家って言った?
空腹過ぎて思わず幻聴なのかと疑ってしまう。