皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
触られていた手を、私の手で止める。
どうしてかは分からないけど、何故かこれ以上触らせていても言葉では上手く言えない何かが壊れてしまいそうで、無言で彼の暖かい手をゆっくりと降ろす。
「これ以上触れたら…怖いか?」
私の目を見ながら優しく小さな声で呟く。
手を降ろして重なった位置が変わり、今度は黒川君が私の手の上に乗せて、軽く握られる。
顔との距離は数センチ。
薄暗くても見える黒川君の瞳に、飲み込まれそうな感覚。
怖い
自分の中の沢山の理由があるのに一言【怖い】の三文字。
これ以上はしたことが無いから怖い。
お父さんが大変な時なのに、こんな事をしてしまう自分が怖い。
私達偽物の関係だから、これ以上の事をしていいのか分からなくて怖い。
これ以上の事をして、好きになってしまう自分が怖い。
好きになっても、結局私から離れていってしまう関係が怖い。
黒川君、沢山あるよ。
怖い理由が沢山あるんだよ。
暫く沈黙が流れ、いつの間にか食べ終わったプリンの空の容器が横に倒れていた。
本当はあのプリン、食べたかったな。