皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「俺、帰るわ。」
突然立ち上がる黒川君に思わず動揺してしまう。え、え、何で?もしかして、やっぱり私なんかが拒否なんてしたから機嫌悪くなったの?
だけど引き留める理由も無い。
「…黒川君。」
名前を呼ぶのが精一杯の私は臆病なのか。
離れた手がスゥーッと冷たく感じる。
「幸子が悪いわけじゃない。俺が悪いんだ。俺が…。」
「……。」
「幸子…俺。」
「海外進出決まったんだ。来年の映画の上映に合わせてある程度の宣伝が終わったら、向こうに住居移す予定…これから仕事の合間とかでも色々準備で、向こうに行くことも多くなってくると思う。」
彼の夢が始まるということは、
…私は?
「が…頑張っ…。」
応援しなきゃいけない言葉の筈なのに、喉に引っ掛かり上手く声に出せない。急に思い出す頬の痛みがズキズキと邪魔して余計上手く話せない。
「明日電気買ってきてドアの所にぶら下げておくわ。こんな暗いとまた足ぶつけるぞ。」
「…ぶつけないよ。」
ズキン ズキン ズキン ズキン
痛いのは頬だけじゃない。
胸の真ん中が痛い。
「行くわ。」
行かないで
私を置いていかないで
あぁ誰か…私の代わりに彼を引き留めて。
私の代わりに誰か…私から離れないでと言って。
自分の口から言えないんだよ。
ズキズキと痛むから
ズキズキと苦しいから。
誰か彼を引き留めて。
お願いします。
無情にも、靴を履く音からバタンと外に出る扉の音が静かに消えた。
行かないで…。
行かないでよ…。
言える資格なんてない。
だって私…本当の彼女じゃない。