皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
転がっているプリンの容器から流れているカラメルソースが、溢れて畳に染み込んでいる。
「あ~ぁ…。」独り言を呟きながら暗闇の中、慣れた家具の配置だけどさっきみたいに物にぶつからない様に、布巾を持ってきてゴシゴシ畳を拭いていく。
此処に黒川君が座っていた。
此処でプリンを食べていた。
私の頬を撫でて、きっと多分、キスしようとしていた。
もしかしたら、それ以上のこともされていたかもしれない。
だけど時間は戻らない。
やっぱりと思っていても、もう此処に彼は居ない。
映画の主役だけでも凄いと思っていた。それだけでも世界が違う人だと認識したのに。
海外…。
何処の国で何をするかも聞いていない。
やっぱり私達には話すことが足りなさすぎる。知らないことが多すぎる。
どんどん私から離れていくんだね。
ぽっかり穴が開いた胸の感覚から、台所のテーブルの上でマナーモードの携帯が震えていて、今度は胸騒ぎ。
鳴っている携帯にゆっくりと近づいて、私の携帯を鳴らす相手を見ると、
【秀紀さん】
初めて見る着信の名前に、ドキッと嫌な胸の音を感じて恐る恐る電話に出る。
『も、もしもし。』
『あ、もしもし幸子ちゃん?秀紀です。こんばんは。』
『こ、こんばんは。』
一体何の用事だろうか。
黒川君はさっき私の家から出ていってる。
『ちょっと話しがあるんだけど、電話では話せないことなので今からちょっと外に出てこれない?』
『え…。今から…ですか?』
『直ぐ終わるよ。瑠色はもう居ないでしょ?』
『………。』
まるでさっきまで此処にいたかを知っているかの口調に、何だか嫌な気持ちになる。
そして、秀紀さんまでもここのボロアパートを知っているであろう、その話し方に拒否は出来なさそうだ。