皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました

「嘘…。」
「嘘じゃないよ?初めから言われてたでしょ。事務所の方針でスキャンダル起こすからって。たまたま知り合いも友達も居ない君が選ばれただけだよ。こんな記事でも映画の主役の宣伝になるし、アンチが騒げば騒ぐ程知名度が上がるんだ。後々発表される海外進出にも効果抜群、間違いなしだよ。」
「…でも。」

「良い写真が撮れて良かったね。記事は殆ど捏造だけど、この写真は信憑性があって世間も大騒ぎだよ。暫くして彼女と別れたと瑠色の口から話せば、去ったファンは戻ってくるし、話題で知った人はファンになる。良い宣伝効果をありがとう。」


今日の秀紀さんは眼鏡をかけておらず、淡々と話す雰囲気が怖くて身体が固まってしまう。


「なので、君の役目は終わり。これ、報酬ね。君の家庭環境も知ってるから上乗せしといたよ。」
「………。」


秀紀さんが一度車の助手席のドアを開けて、私に分厚い封筒を渡してくる。
中身を見ないで、私はズシッと重い封筒を黙って受けとる。


「あと、携帯も返して貰える?支払いしてたのは瑠色だけど、契約したのは僕なんだ。今後携帯を使うなら自分で契約してね。未成年だから保護者の承諾は必要だよ。あ、お父さん入院してるなら今すぐは無理かな。」


出して?と手を出される。
何も言えないまま、ポケットに入っていた携帯を秀紀さんの手の平に乗せる。


「ありがとう。正直瑠色が君のことになると仕事を抜け出すし、集中しなくなるし、こっちも困ってたんだ。かなり周りの迷惑をかけているの知らないでしょ?」

「それは…。」

「可哀想な君を助けるヒーローに酔ってたのかな。お父さんのことは大変だと思うけど、それは瑠色には関係の無い話だから。」

「………。」

「わかってると思うけど、今後持つかもしれない携帯で、今回のことネットで晒すもんならこちらも容赦しないから。」

「そんなこと!…しません。」

「うん。幸子ちゃんならしないよね?信用してるよ?」



肩をポンっと触られて、思わず怖くてビクッとしてしまう。


「あ、ちなみに今日で終わりって瑠色も承諾済みだから。なので今までありがとう。瑠色の代わりにお礼を言っておくよ。」


秀紀さんが車に乗ろうと、運転席に戻る。


「さよなら幸子ちゃん。元気でね。」


私の返事なんて要らなかったかのように、ドアを勢いよく閉めて走り去っていった。

私の手には、分厚い封筒と雑誌。



ポケットに入っていた携帯は





もう、ない。

彼からの連絡は、二度と来ない。





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