皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました

「それでどうしていいかわからなくなって、飲み過ぎてこのざまだもんな。」


ベッド内で身体を起こして、点滴をしていない片手を、顔を覆って大きなため息をつく。


お父さんなりの私の優しさだったのかもしれない。家を追い出されるなんて娘の私に言いづらかったのかもしれない。

でもお父さん、現実は甘くないんだよ。


「お父さん。大家さんには知り合いのアパートを紹介して貰えたし、引っ越しトラックも善意で出してくれることになったから、退院したら違う家だからね。」

「…もう疲れたな。」



お父さんはそう呟くと、寝るわと横になる。
 
退院の目処はまだ何も聞いていない、肝臓だけではなく、あちこち悪いらしいとソーシャルワーカーさんが遠回しに教えてくれた。

受け取ったお金がどんどん減っていくが、色々重なる出来事に丁度良かったと思う。


紹介されたアパートは、今住んでいる所と大した差が無い家賃と古い築年数。
間取りも変わらない、ただ今まであった個人の物置小屋が無くて、今まで隠して置いた私の私物はどうしようと頭を抱える。


「幸子…本当にごめんな。」

アルコールを飲んでいなくて、素直に謝るお父さんの言葉を聞いたのはいつ以来かな?


「いいよ。私が何とかするから。」



子供の頃から言っていた空気のように出る言葉。
これからあと何回言うのかな。

疲れたと話すお父さん。

ねぇお父さん、私も疲れたよと言ったらどうなるかな。
テレビカードと飲み物を補充して、病室をあとにした。




エレベーターのボタンを押してロビーを歩き、病院を出る。

消していく私の痕跡は、アパートだけじゃない。
ファミレスのバイトも引っ越し屋さんのバイトも、紹介されたアパートからかなり遠く、家庭の事情でということで今月中に辞めることが決まった。

無意識に待ってしまう彼の姿、もう疲れたんだ。
なのに私が居なくなっても、消えない黒川君への感情。

何処にいても、何を見ても思い出す黒川君の顔と温もりとあの匂い。




頑張ってる?黒川君。

私のことなんて、もう忘れてる?



忘れないでねって、引き受ける条件に付け足しとけば良かったかな…。



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