皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「あと…あの時週刊誌の記者を呼んだのは、僕が先走って関係を世間に認めて欲しかっただけなんだ。
偽物じゃない、僕が彼氏で君が彼女だよと世間に知らせたかったんだ。
きっと誤解をさせた。キチンと説明するべきだった。
それから事務所から大きな圧力や見たこともない損害賠償金も提示されて、身動きも取れなかったんだ。だけどハッキリ言う。
僕は全てを精算して全てを捨てて、君を守ることに決めた。瑠色としての人生を辞めても構わない。
決まっていた海外進出も飛ばしたよ。それくらいの覚悟を僕は決めたんだ。
あと…あの時あの部屋で僕が出ていったのは、大切な君に堪らなく触れたくて仕方なかったんだ。小さくて傷だらけの君の事が…好き過ぎて…。
だけど君に嫌がられるのも怖くて…。
なのに君が居た筈の場所に居なかった時、僕は本当に心の底から後悔した。
もっと早くに動くべきだったんだ」
一瞬間を置き、黒川君が一度深呼吸をして何かを決意したのか。
真面目な顔から、フッと優しい晴れやかな表情に変わって口を開く。
「僕は…
君を探して見つけ出す。君が僕のことを好きだと信じて…必ず迎えに行くよ。
応援してくれたファンの皆様、そして僕と携わってきた関係者の皆様、こんな突然の動画で申し訳ありません。本当に今まで、有り難うございました。」
瑠色は深々と頭を下げて、約三分程の動画は終了した。
「これ!幸子!幸子のことだよ!?」
「………。」
「ホラ!だから言ったじゃん!!瑠色は薄情じゃないよって!」
「………。」
「カッコいいじゃん!ホラ!瑠色ってカッコいいでしょ!?ね!?」
加南子の目に涙が溜まりながら興奮気味に話す。
「これだからファンを止められないんだよ!どんな事があっても私はずっと瑠色を推してやるわ!」
私も同じく目に涙を浮かべながら、興奮している加南子を見て、驚きと嬉しさで身体が動かなかった。
「これ、瑠色でしょ?」
「え?木村さんのことってまさか~?」
「ファンの妄想って怖いもんだな。」
事情を知らないバイトのメンバー達が、それぞれ仕事に戻っていく。声を大きくはしゃいでいた加南子も、バイトリーダーに怒られていたが、全く反省していない。
そんな私も、手が止まっていると注意されたのに上の空だった。
上の空で頭の回らない思考だけど、
やっぱり考えても考えても、私のことを話してくれたとしか考えられない。