皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「そうよ?瑠色が家を空け過ぎると幸っちゃん寂しいでしょ。あと…
また学校に行けなくなって、皆より卒業が遅れるわよ?」
去年と同じ脅し文句をママさんが黒川君に伝える。
「そ…そんなダサイ事にならないから。」と、少し心当たりがあるのか言葉を詰まらせるが「つか俺が家を空けると幸子の父さん見張れないからちゃんとセーブするって。」
と、黒川君が話した言葉に
「おい!てめぇコラ、お前が居なくたってちゃんとしてるわクソガキが!」
「あぁ!?ちゃんと出来てから言えよこのクソ親父!!」
と、店主と同じく厨房にいる私のお父さんが声を上げる。
そう、黒川君はこの定食屋の直ぐ近くに、私とお父さんが住む借家の綺麗な一軒家を用意してきた。これだけでもビックリするのに、
「俺が家賃もろとも払うんだから俺が住んでも文句無いでしょ?」
と、まさかの三人共同生活が始まってしまった。
最初から遠慮無しの黒川君と、気が短いお父さんといつも怒鳴り合いばかりして、時には取っ組み合いの喧嘩までしてしまう始末。
だけど、リビングに置かれた大きなテレビを観て映し出される黒川君の姿にお父さんが
「幸子っ!瑠色出てるぞ。あの野郎クイズ番組なのに、全然答えあってねーわ。帰ってきたら馬鹿にしてやるか。」
と、黒川君が映るテレビ番組を、嬉しそうにお水を飲みながら録画までしていた。
違和感だらけだった関係性にいつの間にかすっかり馴染み、そして私はここの定食屋のバイトに戻ってこれたのが堪らなく嬉しい。
「お帰り幸っちゃん。」
また働きたいとママさんの自宅を訪れた時に、泣きながら言ってくれた言葉。私も思わずママさんと抱き合いながら泣いてしまった。
「あ、木村さん流石ですね。今度はもう少し薄く切ってみましょうか。」
「…すいません。」
お父さんが昔、料理人だったという話を酔っ払いながら聞いたことがあったけどまさか本当だったとは。