皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「…すいません。まだ手の震えが止まらなくて…。」
「木村さん、焦らないで。ゆっくり身体を戻していきましょう。」
「そうだぞ?クソ親父。焦ったって上手くいかねーぞ?」
「黙ってろクソガキ!!」
フフっと私とママさんで顔を見合せて笑い合い「あ!幸っちゃんもう学校行かないと。はい、いつもの一回転。」と、私に消臭スプレーを振りかける。
「…幸子。今日、お父さんがお前の弁当作ったんだ。…あんまり綺麗じゃないけど。」
と、お父さんが気まずそうに私のお弁当箱を差し出してくれる。此処で働くようになってから、店主の提案で私のお弁当をたまに作ってくれるようになった。
「えー!ありがとうお父さん。」
「気をつけて行ってこいよ。」
お父さんが、少しだけ笑顔を見せたかと思ったら直ぐに厨房に戻って、真面目な顔をして再び店主から指導を受けている。
「瑠色ー行くぞ。」
「秀紀さん来るの早いって。」
「新人のお前が早く現場に着くのが当たり前だろ。」
秀紀さんが予定時間より早めにお迎えに来て、黒川君が不貞腐れる。
「あ、おはよう幸子ちゃん。今日も可愛いね。」
「お、お、おはようございます!今日も眼鏡が素敵で…。」
「だから来るの早いっつったんだよ!秀紀さん幸子の眼鏡好き知ってるから、わざと掛けてくるしさぁ。」
「えーそんなことないよ?幸子ちゃんが好きなのは眼鏡じゃなくて、俺…?じゃない?」
「いえいえいえ!近い近い近い!」
黒川君の目の前で堂々と私の顎をクイッと上げたと思ったら、その指で私の唇をチョンと優しく触れる。
「「「コルラァ!幸子に触るんじゃねぇ!!」」」
黒川君、お父さん、店主が同じ言葉を大声で上げて秀紀さんに怒鳴り付ける。
「やれやれ…うちの男共は…。」と、ママさんが呆れたように店の外に出て掃き掃除をし始める。
私もその隙に店を出て、学校に行くリュックを背負い直す。