皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
失礼な事を言って醜い表情をしながら机越しに立っていたA子とB男も、周りと全く同じ反応をしていてそれどころか
「お、おはよう瑠色。今日も素敵だね。」
「お、おう瑠色。昨日も仕事か?」
声を高くして、ご機嫌取りな見え透いた態度に、最初に私に言っていたあの嫌味は何処へやら。…アホくさ。
皆が隣の席の黒川君に夢中になっている中、昨日の出来事は荒れた家の中、寝ているお父さん、なんだかんだ現実から戻ってくるのは充分な要素で黒川君を思い出す事は一秒も無くて、
「おはよ。」
と、前を向いていた筈の黒川君の身体が90℃直角に動いて私の方を向き、片手で肘をつきながら自分の頭を軽く支え、机と机の間に長い足が二本、こちらを完全に向けている。
「あ、どうも。おはようございます。」
とりあえず0.5秒程顔を見て0.5秒で頭を下げて1秒で前を向く。合計2秒。
「…やっぱり悪夢じゃないか。」
「「「え?」」」
ため息をつきながら肘をついていた彼の手が、自分の前髪をサラリとかきわけている。
私とA子とB男も黒川君のその行動と謎の台詞に同じ言葉と同じ表情をしてしまう。