皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「悪いけど、こういう事をするなら私はもう黒川君と関わらない。貴方の性欲を満たす為に引き受けたんじゃない。」
「…嫌だったの?」
キーンコーンカーンコーン
昼休みが終わるチャイムがこの場所から少し離れた所で聞こえ、私は急いで立ち上がる。
「ホラ、行くよ。」
「うーい。」
彼を置いて私は急いでパタパタと階段を降りていく。
廊下では数人の生徒が慌てて教室に戻ろうとしているのを見ながら、次の教科はなんだっけ?と考える。
嫌だったの?
この言葉で嫌じゃなかった自分がいて、嘘をつくのが好きじゃない私としては今チャイムが鳴ってくれたことにホッとしたのも事実。
唇が触れた首もとや耳は、正直気持ち悪い程の拒否ではなかったがされたことがない行為を、私が受け入れられないというより初めての経験で戸惑ったという感覚の方が正しい。
だけど、後ろから私を包み込む密着は、恥ずかしながらも心地好いと思えたことにビックリしている。
だけど、それは彼に対して好きという感情があるのかと問われると、
瞬時に出てくるお父さんの姿。
私はこんな事をしている場合じゃない、お父さんを助けなきゃと心に刻み込んだ決意が、黒川君だけではなくて他の人にも同じくそんな甘い感情は生まれないように自分の中でセーブをかける。
「幸子、俺、午後から撮影あるから出るわ。」
「あ、うん。頑張って。」
何度も気付けば居なくなっていた黒川君。
今日は初めて、私に告げてまたなと玄関に向かう廊下を歩いていく。
あの香りが私の制服に移った気がして、その匂いをまといながら私は教室に向かって走って行った。