皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
非日常な感覚
買って貰ったパンは今ここで全て食べられる量ではなく、白いビニール袋に入れる。
「黒川君、これ貰ってもいい?」
「全部幸子のだから持ってけ。てか今日バイトあるなら休めよ。そんな身体で働いてまたぶっ倒れたら向こうだって迷惑だぞ。」
「…そうだけど…。」
休んだら給料が減るから…と、保健室の先生や黒川君の前で言える筈もなく。
パンを二つ食べたらなんとなく身体が元気になった様な気がして、働かない事が勿体無い。
「あ、じゃあ俺さ、この後ちょっとだけ仕事あるんだけど幸子、ちょっと手伝ってくれない?」
「え?」
ペットボトルのお水を飲み干した黒川君が、携帯を取り出して何処かに電話をかける。
「あ、お疲れさまで~す。うん、うん、ちょっと事情あって幸子連れて行くから。うん。あ、もう迎え来てもオッケーで~す。」
電話で話している所を、食べてさっきよりスッキリした頭で彼の姿を観察する。
携帯で話す声のトーン、空になったペットボトルを持つ手も、長い足が組まれている所も、
昨日少しだけ見えた写真集の黒川君がここにいる。
忘れていないけど忘れていた。そうだこの人芸能人なんだ。
誰しもが心ときめく彼の人柄は、意外と優しくてそして頼りになる。それとも皆そんな彼をとっくに知ってるのかな。
「あ、黒川君?帰る前にここにサイン書いてね。娘といっつもドラマ観てるのよ。」
さっきまで他の生徒と変わらない態度をとっていた保健室の先生でさえ、実はファンということに納得さえしてしまう。