皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
「…私も見ていい?」
あと1枚となっている紙袋の中身に、ずっと嫌味を言ってきたA子。私も流石にこの女は…と構えて素直にいいよと言えず黙っていると。
「…ごめん、だよね。ごめん。」
と、少し泣きそうな顔で諦めたのか、その場から離れようとしたので、私だってそんな顔を見せられて鬼じゃない。
「ウソウソ、見てみなよ。あとこれしかないよ?」
「……ごめん。」
「もういいって、ホラ。」
A子の名前は加南子。あと1枚しかない大きなサイズのパーカーを加南子が手に取り、
「これ、いいかな?」
「サイズ大きくない?」
「何言ってるのよ、わざと大きく着ても可愛いんだよ?」
「そうなんだ、私、そういうの全然わかんないから。」
「…あ、うん…だよね。」
私の家庭事情を知ってる加南子が申し訳なさそうに返事をする。
なんだ、そんな気遣い出来るんじゃん。
「今度時間ある時洋服の事教えて。」
言われた言葉にビックリしたのか、笑いながら
「洋服って。フフッ。幸子…ありがとう。瑠色もありがとう。大事にする。」
「ん~。」
黒川君が特にこちらを向かず、でも返事をしてくれた事に頬を赤らめ、パーカーを胸に抱えて自分の席に戻っていった。
「あ、ねぇ黒川君。この紙袋貰っていい?何かに使えるかも。」
「俺の婆ちゃんかよ!」
貰った紙袋の中に、ソッと水色のシャツを仕舞って机の横にかける。
皆嬉しいのか、笑顔で穏やかな時間が流れ、教室内に始まりのチャイムが響き鳴ったが、生まれて初めてこんなに【ありがとう】と言われ、違う意味で私は嬉しい気持ちになれた。