皆の推しメン(ズ)を私も好きになりました
変わりたくて
「し、しておりません。」
美容室の入り口で、お洒落な帽子と黒ぶち眼鏡をかけた美容師のお姉さんに、思わず丁寧に答えてしまう。
予約…美容室は予約というものが必要だったのかと一つ知識が増えた所で、かいてしまった恥は取り消せない。
恥ずかしくてごめんなさいとその場から離れようとしたら、
「あ!待って待って!今ね、丁度キャンセル出たの。カラーは出来ないけど…。」
「か…髪の毛を…切るだけなのです…。」
お洒落美容師の前で、もはや丁寧語がアニメのキャラクターみたいな話し方になってしまい更に恥を重ねていく。
「アハハハハハ!そんな怖がらなくていいから!どうぞどうぞ。」
ドアを開けられた空間に足を踏み入れると、黒いカウンター、棚には高そうなボトルが綺麗にズラリと並び、壁には見たこともない大きな絵が書いた額。そして化学物質のようなツンと鼻につく匂いがする。
全身映りそうな鏡に、椅子が三つ並べられ、少し離れた場所にシャンプー台が設置された椅子。
「どうぞどうぞ。カバンお預かりしますね。」
「すすす、すいません。」
初めての美容室に緊張が止まらず、誘導される椅子にも足がおぼつかない。
「カットだけでいいのね。リクエストありますか?」
「……?」
リクエスト?
全然何もわからない。いつもの床屋さんのおじさんは、勝手に切って勝手に終わってしまうのでそんな質問された事が無い。
鏡に映る、明らかに困っている自分の顔。本当に初めて過ぎてどうしたらいいのかわからなくて、恥ずかしさ通り越して情けなくなる。