余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
* * *
些細な違和感を覚えたのは、六月に入った頃。
肩こりのような強張りを感じる日が続き、マッサージをしたり湿布を貼ったりするようになった。軽い頭痛も頻繁に起こっていたが、薬を飲めばラクになっていたので肩こりから来ているのだろうと思っていた。
ところがそれは一向によくならず、手が上がりづらくなる時もある。一度整体にでも行ったほうがいいかな、なんて考えていたある日、手が硬直したように完全に動かなくなった。
その瞬間、ふとひとつの可能性が頭をよぎった。祖父が脳卒中の一歩手前だった時も、手に異常が出ていた。もしかして、原因は脳?
考えすぎだろうか。でも念のため受診したほうがいいかな……と、悩みながら早めに仕事を終えて帰宅している最中、なにもないところで急につまづいて転びそうになった。
よろけてすぐそばの電柱に手をつき、考え事もほどほどにしないと、と反省したその時。
「大丈夫かい?」
私の失態を目撃したらしき六十代後半くらいの小柄な男性が声をかけてくれて、私は笑って恥ずかしさをごまかす。