余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「あはは、大丈夫です。ありがとうございます」
「いやいや。ちょっとお嬢ちゃんの歩き方を見ていて気になったんだけどね、こうやってつまづくことはよくあるのかな?」

 短い白髪にグレーの口髭を生やしたとても物腰柔らかな印象の男性は、穏やかにそう問いかけてきた。完全に初対面だけれどまったく不審な感じがしない人で、私も自然に答える。

「そういえば、この間も転びそうになりました。おっちょこちょいですね」
「ふむ。足だけじゃなく、手も動きづらくなることはない? 頭痛や、物忘れすることは?」

 彼はふんふんと頷いてさらに質問を繰り出してきたのだが、思い当たるものばかりで私は目を丸くする。

「肩こりと頭痛は結構あります。物忘れは……言われてみれば、人の名前とか行った場所の名称とかがすぐに出てこない時は最近多いかも。え、どうしてわかるんですか?」

 この人はエスパーなのか?と本気で疑うくらい驚いていると、彼をまとう空気がわずかにきりっとしたものに変わった気がした。しかしそれは一瞬で、彼はにこりと微笑む。

「よし、わかった。今ちょっと時間あるかい? 診てあげるから僕についておいで」
「えっ」
「僕ね、クリニックの院長をやってるの」

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