余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 そして、やはりこちらの病院では手術はできないと断られてしまった。これも聞いていた通り、手術することによって記憶障害や麻痺、失語などの重い後遺症が残るリスクが高いからだと。

 とはいえ、できる限りの治療をするために入院は必須。すぐにでも準備をしてくるようにと言われたものの、私はあえて一カ月後にしてほしいと頼んだ。

 自分で考えて自由に行動できるうちに、やりたいことをできるだけやっておきたいのだ。そのためには、せめて一カ月は欲しい。

 悪性脳腫瘍は今この瞬間にも大きくなっているかもしれないので、なるべく早く治療するに越したことはない。もちろん担当医にも、両親にも早く入院したほうがいいと説得されたが、私の気持ちは変わらない。

 残りの時間をどう使うかは自分で決める。他の誰でもない、私の人生だから。

 両親にそう伝えると、やっぱりわが道を行くのが天乃だよなと、最終的に私の意思を尊重してくれた。こんなわがままはもう言わないから、どうか許してほしい。

 病気の告知をされてから、人知れずたくさん泣いた。泣いて泣いて、覚悟を決めると生まれ変わったような気分になった。

 ありきたりでなんでもない、宝物のような日常を、一カ月間大事に過ごしていこう――と。


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