余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
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記念パーティーをひと足先に抜け出した私は、家まで車で乗せていってもらおうと楓を呼び出した。こういうこともあろうかと、なにかあった時はよろしくと念のため伝えておいたので、彼はすぐにやってきた。
青いスポーツカーの助手席に乗り込み、楓はさっそく車を発進させて気だるげに話し出す。
「夏生さんは病院か。俺は医者にはなりたくないね。で、パーティーどうだった?」
「楽しかったよ。料理も美味しかったし。でも……少しの間しゃべれなくなって」
ためらいがちに言うと、彼は眉根をぎゅっと寄せて「あぁ?」と返した。心配させてしまうとわかっていても、自分の中だけに留めておくこともできそうにない。
「急に文字が読めなくなって、頭の中に言葉は浮かぶのに声に出せなくなったの。ほんの数分だったんだけど、あんなの初めてで……怖かった」
あれはおそらく失語の症状なのだろう。脳腫瘍が原因でどんな症状が出るのか調べたからなんとなく知っていたが、あんな風になるんだと実感した。
りほさんに疑われてしまったのは失敗だったけれど、とりあえず症状がほんの一時的なものでよかったとほっとしている。楓は心配そうにしているが。