余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「薬飲んでるんじゃねーのかよ」
「もちろん飲んでるよ。完全に抑え込めてはいないみたいだけど、飲んでなかったらもっとひどい症状が出てるのかも」

 入院まで時間があるので飲み薬を出してもらっているが、種類が豊富で人によって合うものが違うらしい。

 花火大会の日に片足が動きづらくなって転びそうになったのも、今日ワンピースのホックを留めようとした時に手が動かなくなったのも、実は症状のひとつだ。なんとかごまかせたものの、内心夏くんにバレないか冷や冷やしていた。

 ただ、これらも一時的で歩き方に違和感はなくなったし、薬はある程度効いているのだろう。そうでなければ、医者としての観察眼を持つ夏くんにここまで隠し通せはしなかったはず。

「入院まであと二週間……本当に待ってていいのか?」

 楓は私に問いかけるというより、ひとり言のように呟いた。彼にも両親にも、もどかしい思いをさせて申し訳ないが、まだ手術するわけにはいかない。

「薬を飲む前に比べたらすこぶる元気だし、なんかこう悪い感じがしないの。だから大丈夫!」
「説得力ねぇー」

 据わった目をして脱力する彼に、私は明るく笑った。

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