余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 しばしたわいない雑談をして、それが途切れたところでひとつ気になっていたことを聞いてみる。

「ねえ、パーティーの後も私たちの関係はバレてない?」

 あの時りほさんに疑われてしまったので、もし婚約が嘘だという噂でも流れてしまったらどうしようと心配だったのだ。しかし、夏くんは特に困っている様子はない。

「ああ、たぶん大丈夫。特に悪い噂は聞かないし」
「そっか。ならよかった」

 ひとまずほっとしていると、彼の左手が伸びてきて私の右手にそっと重ねられた。不意打ちの触れ合いに、ドキリと胸が鳴る。

「もう偽物の関係は終わり。本音で向き合って。天乃も」

 ……そんな風に言いながら、手を握るなんてずるい。今こうしているのは演技じゃないって、しっかりわからされているみたいだ。

 ダメなのに、どうしても心が喜んでしまう。彼の顔を見られず俯きがちになって曖昧に頷くと、私の手を包み込む力が少しだけ強くなった気がした。

 約二時間の電車の旅を終え、私たちは大阪の地に降り立った。ギラギラとした太陽がかなり暑いけれど、飛び交う関西弁が賑やかで気分が上がる。夏くんは当たり前のように手を繋ぎ、私も歩幅を合わせて歩き出した。

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