余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
──重い瞼が自然に開いた時、窓の向こうはすでに明るくなっていた。ぼんやりする頭をなんとか回転させ、昨夜は存分に愛された直後に眠りに落ちたことを思い出す。
……ああ、まだ生きている。身体はすごく怠いけれど、それすらも幸せだと感じる。
隣を向けば、安堵したように目を閉じているとても綺麗な寝顔がある。緩くうねる柔らかな髪の毛と、すべすべの頬に触れたくなって手を伸ばそうとするも、途中でやめた。
夏くんが起きる前に帰ろう。そして、もう会わない。幸せな記憶だけ持っていくずるい女のことなんて忘れてほしい。
名残惜しさを必死に振り切って、そうっとベッドから抜け出す。散らばった服を集めて素早く身につけ、荷物を持ってドアのほうへ向かおうとした、その時。
「ひとりでどこ行くの」
「ひゃっ!」
背後から腕を回され、抱きしめられた。上半身裸の彼にバックハグされただけで、昨夜の甘い記憶が鮮明に蘇ってくる。
びっくりした、起きてたんだ……。黙って去るなんて都合のいいことは許されないんだなと、決まりが悪くなりつつへらっと笑う。
「ごめん、起こしちゃって。無断外泊しちゃったから、すぐ帰らないと」
「それなら俺が説明する。半端な気持ちで付き合うわけじゃないって、家族にもわかってもらいたいしね」