余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「結婚したら面倒臭いことばっかりじゃない。家族付き合いとかしんどいし、苗字も変えなきゃいけないし。偽装婚約をしたのも、ちょっとシミュレーションしてみたかったからなの。でも、やっぱり無理だなって思った」

 ぎこちない笑みを作って、つらつらと出まかせを口にする。

 こんな自己中心的な女は嫌われるだろう。そのほうがいいのだと吹っ切ると、驚くほどすんなり嘘が出てきた。

「それに私、仕事で異動になってちょっと遠いところに行くの。会えなくなるから、夏くんとの思い出を作りたかったんだ。自分勝手でごめんね」

 なんとか顔を上げて言い、怒りとも悲しみともつかない表情の夏くんから逃げ出す。

 昨日の情事は雰囲気に流されただけ、私が好きだと言ったのも行為を盛り上げるためのものだったと受け取られても構わない。

 しかし、「待て」と腕を掴んで引き留められた。

「そんなんで納得できるわけないだろ。全部が天乃の本心だとも思えない。……こんなに泣きそうな顔をしておいて」

 顎に手を添えて彼のほうを向かされる。気を抜いたらすぐに涙腺が壊れてしまいそうな顔を、見ないでほしかったのに。

「……昨日は幸せすぎたから、今日が来なければよかったのにって、思ってるだけ」

 ぽつりと力なく本音を呟いた。幸せなひと時が永遠に続いてほしかったけれど、現実は厳しい。

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