余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「痛っ。ツッコミがおばちゃん……」
「ダメダメ、そういうの。青春みたいでむず痒いのよ~」
「そうだ。夏生が嫉妬するからやめろ」

 慎ちゃんは心なしか照れているように目を背けて言い、私も自然に笑みがこぼれる。やっといつもの私たちらしさが戻ってきてからは、しんみりする話はやめて食事を楽しんだ。

 本当に照れ臭いけれど、ふたりにも思っていることを全部伝えていきたい。病気を患っているかどうかにかかわらず、こうしていられるのは当たり前じゃないと気づいたから。


 そしてそれは、家族に対しても同じ。

 病気を宣告された日から、今まで以上にたくさん、自分の気持ちもなるべく隠さずに深い話をしてきた。もうすぐ皆と離れて入院しなければいけないと思うと、無性に心細くなる。

 午後九時過ぎ、秋奈たちと別れてやや物寂しい気分で帰宅すると、いつものように家族が出迎えてくれた。

 キッチンの冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り出す楓が「おかえり」と声をかけ、私にさりげなく近づいてくる。

「さっき夏生さんが来たよ。親父たち外に出てたから、俺が対応したけど」

 夏くんの名前が出されてドキリとする。

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