余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「とにかく、男女の問題は先送りしないで早めに解決したほうがいいかと」
「そうですよ。でないと、とんかつにケチャップかけて食べることになりますよ」

 研修医もそう忠告するので、それは気をつけようと少しだけ笑いがこぼれた。「じゃあ、お疲れ様でした」と会釈して帰っていくふたりを見送り、俺は再びパソコンに目を向ける。

 そうしてまたしばらく経ち、午後八時になろうかという頃、数人の医師しか残っていない医局に今度は院長が姿を現した。挨拶をすると、彼は俺のところに向かってくる。

「芹澤先生、お疲れ様。仕事が終わったら、ちょっと院長室に来てもらいたいんだが」
「わかりました。すぐ伺います」

 もう終わるところだったためそう応え、手元の書類を片づけ始める。院長から直々に呼び出されることはあまり多くない。さすがにもう結婚話ではないだろうし、なんの用事だろうか。

 ひとまず院長室へ向かうと、待っていた彼に応接セットのソファに座るよう促された。お互いに腰を落ち着けてすぐ、院長が「さっそく本題だが」と切り出す。

「鈴木先生が来年辺りに引退を考えているのは知っているだろう? 彼とも話したんだが、後任として君に外科部長を頼みたいと思っている。鈴木先生も異論はないと言っていたよ。そうなれば、白藍では最年少外科部長になるな」

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