余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 どこか満足げな調子で告げられたのは、意外にも昇進の話だった。

 自分がこの歳で外科部長に推薦されるとは恐れ多いが、鈴木先生はとても腕のいい医者なので、本当に引退してしまうんだなという寂しさのほうが強い。

 ますます身の引き締まる思いで「ありがとうございます」と返すと、院長は真面目な表情でやや前屈みになる。

「そこで、君の信用問題に関わることだから聞いておきたいんだが……清華さんと婚約したというのは、嘘だったのかい?」

 突然核心を突かれ、一瞬動揺しそうになった。しかし、すぐにりほさんが話したのだろうと察する。

 天乃には心配させたくなくてバレていない体を装ったが、実は先週りほさんに呼び出されて病院の屋上で問い詰められたのだ。

『この間のパーティーで清華さんの様子がおかしかったので、疑惑が芽生えたんです。おふたりは本当に婚約しているんですか?』と。

 りほさんと天乃との間になにがあったのかはわからないが、確信している様子だったので取り繕うのはやめた。

 それに、りほさんはいつも真正面からぶつかってくる。こちらも相応に向き合うのが誠意ではないだろうかと思い、偽装だったと認めて騙してしまったことを謝罪した。

 彼女は眉尻を下げ、とても落胆した様子を見せた。純粋な彼女には、偽装の関係など理解できないかもしれない。

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