余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「周囲からの結婚話を避けるために偽装婚約をしましたが、それ以上に彼女の密な存在になりたかった。一番近くにいて、彼女の気持ちを自分に向けさせ、嘘を本当にしようと目論んでいたんです。すみません、カッコ悪い理由で」

 今になってみれば普通に告白すればよかったのにと、自嘲気味の笑みをこぼした。

 数秒の間を置いて、院長がぷっと噴き出したかと思うと、急に声をあげて笑い出した。呆れられるか叱責されるだろうと思っていた俺は、意外な反応に目をしばたたかせる。

 ……いや、怒りすぎて笑えてきたとかか?

「いや、すまない。まさかそういう理由だったなんて予想外すぎて。手術は完璧な芹澤先生も、恋愛には不器用なんだなぁ」

 院長はおかしそうにそう言い、「実はね」と秘密を打ち明け始める。

「私も妻に片想いしていたんだが、彼女に御曹司との見合い話が舞い込んでね。どうにか阻止したくて、その御曹司に話をして私が見合い相手に成り代わったんだ。私にも決められた相手がいたから、皆大騒ぎだったよ」
「そう、だったんですか」

 院長がそんな大胆なことをしていたとは。仲のいい夫婦だとわかってはいたが、ドラマのごとく大恋愛だったらしい。

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