余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 表にはあまり出さないが内心結構驚いている俺に、彼は柔和な笑顔のまま話を続ける。

「自分がそうだったから、芹澤先生の気持ちもわかるし嬉しいんだよ。最近の若い子は淡泊だから、もっと積極的に恋愛したほうがいいと思ってるんでね。まあ、相手がうちの娘だったら万々歳だったんだが」

「……申し訳ありませんでした」

「ははっ、こればかりは仕方ないさ。好きでもないのに結婚して、娘を傷つけられたらたまったもんじゃないからな」

 あっけらかんと言う院長は、本当に寛大な人だ。もっと咎められてもおかしくないのに、俺のことを理解してくれるなんて。

 肩の力が抜けていくのを感じていると、彼は真剣な眼差しを向けてくる。

「どうにかして手に入れたくなるほど好きな人に出会えたんだ。大事にしなさい」

 温かな言葉をかけられ、尊敬と感謝の念を抱きながら「はい」と返事をした。

 やはり天乃を手放したままではいられない。その思いもさらに強くなり、会いたい欲求が加速する。

 自分にできることをしようと決意して院長室を出ると、ドアの横にりほさんが立っていた。俺たちが話し終わるのを待っていたらしい彼女は、やや気まずそうに俺を見上げる。

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