余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 指輪を見つめる瞳に、再び涙が滲む。天乃の気持ちは痛いほど伝わってくるので、どうにかしてそれを和らげてあげたい。

「大丈夫だ。腫瘍を取れば記憶障害もよくなる」
「それも一時的なんでしょ? 少しでも腫瘍が残ってたらまた大きくなって、何回も手術しなきゃいけないじゃない。そのうち話せなくなって、夏くんたちの名前もわからなくなったらやだよ……」

 ぽろぽろと涙をこぼして本音を吐露する彼女を、俺は思わず抱きしめていた。病気がわかってからも俺の前では明るく振る舞っていたが、きっと心の中ではこうして叫んでいたのだろう。

「天乃は不本意かもしれないけど、俺はお前が一緒に生きてるだけで十分だよ」

 しっかりと抱きしめたまま、優しく髪を撫でて嘘偽りのない想いを伝える。

「天乃が倒れてここに来た時、もちろんショックだったけど、正直ほっとした部分もあったんだ。もう会えないんじゃないかって不安だったから。天乃がいないと生きた心地がしないんだよ」

 俺のほうが病人なんじゃないかと思うほど、飯も喉を通らないしうまく笑えない。たとえ天乃と意思疎通ができなくなったとしても、このぬくもりに触れていさえすれば幸せを感じられる。

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