余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~

 夜が明け、運命の手術当日を迎えた。朝九時、オペ室に入る天乃にあえて緊張感のない声をかける。

「傷は髪で隠れるようにうまいことやるから、カツラの心配はいらないよ」
「ウィッグって言ってほしいなぁ、なんとなく」

 肩の力が抜けた軽い会話をする彼女は、昨日よりだいぶ落ち着いた様子で笑っている。

「終わったらまたいろんなところに行こうね」
「ああ、約束。頑張ろうな」

 気を張りつつも笑みを向けると、彼女は覚悟を決めた様子でしっかり頷いた。空元気ではなく、いつもの前向きさが戻ってきたように感じたので、少し安心する。

 今日の手術には、俺たちの他に脳脊髄腫瘍医や言語聴覚士らが集まっている。たくさんの医師と様々な機器に囲まれる中、手術台に横になった天乃に麻酔をかけ始めた。

 深呼吸して雑念を振り払う俺を、三浦さんがやや心配そうに見ている。

 愛する人の脳を切り裂くのだからいつも以上に緊張感があるが、もちろん冷静さは保っている。〝問題ない〟と目で合図し、執刀医として完全に意識を切り替えて手術の開始を告げた。

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