余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 覚醒させた時に動かないよう、しっかりと固定した頭に麻酔を注射し、皮膚を切開していく。脳を包む硬膜に到達するまでは、普段の開頭手術と大きな差はない。

 硬膜を開けた時点で鎮静剤などの投与を一旦やめ、天乃の目が覚めるのを待つ。俺の手元では腫瘍と脳の表面が見えている状態だが、脳の細胞自体には痛みの感覚がないのでこんなことができるのだ。

 意識が覚醒してきた天乃に、麻酔科医が「起きてくださーい」と声をかけて起こす。

「お名前言えますか?」
「清華、天乃です……」

 手術中に彼女の声が聞こえるのは不思議な感覚だ。まずは脳を刺激しながら手足を動かしてもらい、他の医師と連携しながら運動機能を司る領域を確認していく。

 この後は言語に関する大事な部分に癒着している腫瘍を摘出する、最大の山場となる。

 俺のほうから彼女の顔は見えないが、「順調だからな。気を楽にしておしゃべりしていて」と声をかけ、バイポーラという腫瘍を焼き切る器具を手にした。

 言語聴覚士があらゆるテストを始め、最初はたどたどしかった天乃も、徐々に慣れてきたようで順調に質問に答えている。それを聞きながら常に運動機能や言語機能に異常がないかを確認し、少しずつ腫瘍を切除していく。

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