余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 そうして数十分が経過したが、腫瘍がこれまであまり見たことがない独特な見た目をしていて俺は違和感を抱いていた。妙だなと眉をひそめるも、腫瘍には変わりないので手を動かし続ける。

 術後に障害が出る寸前まで腫瘍を切り取るのは毎回神経がすり減らされるが、愛する人が相手となるとなおさらだ。

 しかし当の本人は、覚醒しているとはいえ酔ったようにぼーっとしている状態なので、のんびりした声が聞こえてくる。

「ねむ……」
「清華さん、頑張って起きててくださーい!」

 他の医師が大きめの声をかける。なんとか起きていてもらわないと反応を確認できないため、腫瘍と神経との境目がわからない。

 そうして少しずつ確実に切っていくにつれて、俺の違和感は大きくなっていた。腫瘍は確かに複雑に癒着しているのだが、予想以上に剥離が難しくないのだ。

 これはもしかして……とひとつの可能性がよぎった時、テストが長く続くと患者が飽きてしまうため、三浦さんが天乃の仕事についての雑談を始める。

「清華さんはヨージョー食品にお勤めなんですよね。白藍でもたくさん使わせてもらってます」
「あ……ありがとうございます。栄養士さんが贔屓にしてくれるおかげです」

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