余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
──意識が浮上してきて、真っ先に聞こえてきたのはいろいろな機器の音。瞼を持ち上げるのもやっとで、しっかり開ききらない視界に最初に映ったのは、目を見開く父の顔だった。
「天乃!? おい、天乃が目を覚ましたぞ!」
父が叫ぶと、母も「天乃!」と呼んで私を覗き込んだ。その横から楓も心配そうな顔を覗かせ、私はぼんやりと状況を把握する。
ああ、手術が終わって……ICUにいるのか。皆、待っていてくれたんだ。顔が見られてすごく嬉しいけれど、まず父にひと言物申したくてなんとか口を動かす。
「お、父さん……声、大きい」
「はっ! すまん、つい!」
「だからデカいって」
楓が即座にツッコみ、他の患者さんに申し訳なくなりつつも、ふっと笑ってしまった。まさか目覚めて一発目の言葉が父への注意になるとは。
そんな父はさておき、母が焦燥に駆られた様子で問いかける。
「私たちがわかるのね?」
「わかるよ」
小さく頷くと、母が安堵した様子でみるみる涙を浮かべた。まだ頭がぼーっとするけれど、ちゃんと皆の顔も名前もわかるし自然に言葉も出るので、私もほっとした。
数分後、皆が誰かに挨拶したかと思うと、白衣を着たお医者様がこちらに駆け寄る。それが夏くんだとわかった瞬間、自分の意識と一緒に眠っていた愛しさが込み上げてきた。