余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 彼はそこはかとなく不安が混ざった真剣な表情で私を見つめ、家族の前にもかかわらずそっと頬に手を当てる。

「天乃、俺がわかるか?」
「……うん。夏くん」

 また顔を見て、名前を呼べるだけで本当に嬉しい。きっと彼も同じだろう。凛とした瞳がほんのわずかに潤むのを見て、胸がいっぱいになった。

 次いで足が動かせるかを確認され、やってみるとこちらもちゃんと動く。

「手も握れる?」

 夏くんは目線を私と同じくらいにして右手を取る。

 力は入らないものの、その手をゆっくり握り返すと、愛しいぬくもりが伝わってきて心が安らいだ。手術中も彼の声が聞こえたから、心細くはなかったけれど。

「あったかい……。また手を繋げて、嬉しい」

 ゆっくり口を動かしてそう伝えて微笑むと、彼は込み上げるものを堪えるように一度唇を結んだ。

「これからもずっと繋いでるよ。……よかった、よく頑張ったな」

 微笑んではいても瞳は潤み若干声が震えていて、私が自力で手足を動かしちゃんと話せていることに心底安堵したのだろうとわかる。いくら腕がいいとはいえ、彼も怖くなかったわけではないだろう。

 しっかりと握った手を自分の頬に当てて目を閉じる彼に、私ももらい泣きしそうになりながら「ありがとう」と何度も伝える。家族三人も胸を撫で下ろした様子で、私たちを優しく見守っていた。


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