余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 入院するまでは、余命は平均でしかないとわかってはいても、どうしても近い未来に死を感じていた。でもまったく諦めていない夏くんを見て、奇跡を信じてみようという気持ちになった。

 いや、奇跡は起こらなくても、最期の瞬間まで彼といたい。心の底ではずっとそう望んでいたのに、彼の重荷になるのが怖くて逃げていただけなんだ。もう、ひとりよがりの自分には戻らない。

 傷の痛みと気持ち悪さを抱えながらそんなことを思い、早く普通の生活に戻りたい一心で耐えていた。


 一般病棟の個室に移ってからもしばらく不調が続いていたものの、手術の三日後くらいから徐々によくなり、言語のリハビリを始めるまでになった。まだ記憶力が続かなくてショックだったけれど、リハビリを続けるうちに元通りになるそうなので待つしかない。

 ずっと車椅子で移動していたのが自力で歩けるようにもなり、体力も落ちているとはいえちゃんと手足が動いて安堵している。

 なにより、普通に話せるのが嬉しい。毎日家族の誰かと夏くんが会いに来て話し相手になってくれるから、寂しさも感じずに過ごせている。

 手術から六日後、この日はリハビリがなく一日中ベッドでゴロゴロしていた。するとドアがノックされ、ふわっとした長い髪の女性がその可愛い顔を覗かせる。

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