余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「で、天乃はなんでこんなところにいたんだ? 仕事?」
「あ、そ、そう。営業が終わったとこで、夏くんがいるのが見えたから話しかけようとしたんだけど、りほさんに先を越されて」

 近い、ご尊顔が近い!と心の中で叫びつつ答えた。「なるほどね」と頷いた彼は、引き気味になっている私を観察するかのごとくじっと見つめ、ふわりと口元を緩める。

「『顔が酷いことになってる』って言ってたけど、大丈夫そうだな。いつもの可愛い顔に戻ってるよ」

 さらっと〝可愛い〟と言われ、胸がきゅんっと鳴った。夏くんは無自覚に甘くなるから困る。

 そういえば寝不足顔のことをすっかり忘れていたけれど、午後になってだいぶマシになったみたいでよかった。こんなに接近されるとは予想していなかったし……。というか、いつまでこうしているつもりなんだろう。

「えっと、夏くん、そろそろ……」
「ああ悪い、暑いよな。中入ろう」

 ようやく肩から手を離した彼は、ビニール袋を持って院内に向かって歩き出す。本当に、いろんな意味で暑いし汗がダラダラだ。

 とりあえず後に続き、ひんやりと涼しくて快適な院内に入る。総合受付の反対側に位置していて、外来がある時間帯ではなく診療科もない廊下なので人はいない。

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