余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 りほさんに言っただけだし、噂が広まったとしてもほんの一時的なものでしかないだろう。というか、夏くんってそんなにいろんな人から言い寄られているのか。さすがエリート脳外科医、引く手数多なのね。

 胸の中がもやもやし始めて目線を落とした時、急に夏くんが私の前に立ち塞がった。危うくおでこをぶつけそうになり、驚いて顔を上げると、彼はどこか意味深な瞳で私を見つめてくる。

「じゃあ、もっと皆に見せつけてもいいか? 天乃が俺の婚約者だって」

 心臓が大きく揺れ動き、息を呑んだ。同時に、ひとつの思惑が頭の中に浮かぶ。

 これはまたとないチャンスだ。夏くんは冗談のつもりかもしれないが、実際に私が婚約者のフリをすれば彼にとっても都合がいいし、きっと今までよりもっと距離を縮められる。

 偽物の関係でもいい。彼のそばにいられるなら。

「……いいよ。私が婚約者のフリをする」

 まっすぐ彼を見上げて告げると、彼が目を大きく開いた。

「りほさんには顔を知られちゃってるわけだし、少しの間なら協力するよ。皆さんに紹介するような機会があれば、しばらくは結婚話も出されなくなるかも」

 周りに誰もいないことを確認し、彼を乗り気にさせられそうな理由を並べてみた。必死さが出ないように注意して。

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