余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 今夜のメニューは、チーズをのせたハンバーグに野菜たっぷりのコンソメスープ、ヨーグルトが隠し味のコールスロー。至って普通だけれど夏くんは子供みたいに目を輝かせていて、ひと口食べるたびに「うまっ!」と言ってくれた。

 肝心の偽装婚約計画について話し始めたのは、それらを食べ終える頃。ダイニングテーブルの向かいに座る夏くんは、ハンバーグの最後のひと口を放り込み、満足げな表情で切り出す。

「昨日、天乃が『皆に紹介する機会があれば』って言ってただろ? 二週間後くらいに創立記念パーティーがあるんだよ。職員の家族も参加OKだから、そこで紹介するか」
「そんなイベントがあるんだ! ちょうどいいね」

 結構大きなパーティーのようだから、婚約者の存在を周知させるにはもってこいだろう。皆を騙すのはもちろん罪悪感があるけれど、誰かに迷惑をかけることはないはず。

 それが済めば、私はお役御免となるのか。潔く終わりにすると今決めておかないと、未練たらたらで離れられなくなる。彼とふたりだけの貴重な時間を過ごして気持ちを伝えられれば満足なのに、きっとそれ以上を望んでしまう。

「じゃあ、偽装婚約はその日までの約束ってことで」

 胸が苦しくなるのを感じながらも、たいして気にしていないフリをして笑顔を取り繕う。夏くんは真剣な面持ちで私をじっと見つめた後、「わかった」と頷いた。

< 37 / 228 >

この作品をシェア

pagetop