余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 夏くんのようなお医者様が頑張ってくれるから、患者さんとその家族は残りの時間を有意義に使うことができる。病を完治させることだけが医者の役目ではないだろう。

「それを聞いたら、〝ああ、俺は患者さんがその時を迎えるまでの、準備期間を作る手伝いをしてるんだな〟って思えるようになった。患者本人と家族との、かけがえのない時間を作ってるんだなって」

 美麗な顔がこちらを向き、私たちの視線が絡まる。

「天乃のおかげで、俺は脳外科医としての誇りを持っていられるんだよ」

 恐縮してしまいそうなほど嬉しいひと言をもらえて、心が震えた。

 夏くんのために私がしてあげられることは、婚約者のフリとか、家事を手伝うことくらいだと思っていた。でも、まさか六年も前の私の言葉が少なからず影響を与えていたなんて。

「大袈裟じゃない?」
「いいや。天乃からしたらなにげない言葉も、俺にとってはそれくらい胸に響くものだった」

 彼は満たされたような笑みを浮かべ、クライマックスに差しかかった大輪の光の花に目をやった。

 今の彼の言葉もまた、私に大切なことを思い出させてくれる。

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