余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
本物の関係になるまで、あと一週間

 器具と心電図の音が響く静かな手術室。壁掛けテレビのようなモニターに、俺の手元の映像が映し出されている。

 頭蓋骨を切り、硬膜という丈夫な膜をハサミで切り開いて、ようやく露わになった脳の表面にさらにメスを入れる。

 開頭手術を始めて一時間、脳の深さ約六センチの、細い血管や神経が入り組んだ部分に、鶏肉の脂身のような腫瘍が現れた。

「──見えた。これが腫瘍の本体。静脈を温存して、すべて取り除く」

 顕微鏡から目を離さずに緊張感のある声で助手や研修医に伝え、数十ミクロンの細かな血管にくっついた腫瘍を慎重に剥がしていく。

 良性のものだが、結構な大きさに育っているためやや苦労する。神経を傷つければ術後の患者の生活に支障をきたしてしまうため、それだけは絶対に避けなければならない。

 こびりついたシールを少しも破ることなく剥がしていくような、気が遠くなるような作業だが、患者の頭の中にいる悪魔は完全に消し去ってやる。

 約六時間が経過したところで、血管も神経も傷つけずにようやく腫瘍を全摘することができた。スプーンでくり抜いたスイカのようにぽっかりと空いたその部分を見て、男の研修医がため息交じりに言う。

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