余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「難しい場所なのに、出血もなくこんなに綺麗に取り除けるなんて……」
「腫瘍の周りの、正常とそうじゃないところの境目が全部見えてるんですよ、芹澤先生は。化け物です」

 クールなオペナースの三浦(みうら)さんが俺の代わりに返してくれる。無論、俺は自分をすごいとも、化け物だとも思っていないが。

 問題なく腫瘍を取り除けたことで張り詰めていた手術室内の空気もやや緩むが、俺は休みなく手を動かす。その間も彼らが「並の人間には無理ですね」などと言っているので、内心苦笑しつつも淡々と返す。

「俺も普通の男だよ。はい、硬膜の縫合終わり」

 使い終わった器具をトレイにカチャンと置いてひとつ息を吐くと、研修医が目を丸くする。

「早っ……!」
「やっぱり化け物です」

 三浦さんが声色を変えずに言い、次に使う器具をさっと差し出した。開頭手術は傷口を閉じるにも時間と手間がかかるが、後は助手にもやってもらうので俺はようやく肩の力を抜いた。

 手術を終えた患者はしばらくICUで様子を見る。それはひとまず看護師たちに任せ、長時間集中して疲れた肩や首を回して医局へ向かう。

 すると、後ろから先ほどの研修医がやってきて、俺の隣に並んでぺこりと頭を下げる。

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