余命１年半。かりそめ花嫁はじめます～初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで～

　天乃には少なくとも嫌われてはいないはずだ。嫌いなやつを花火に誘ったり、ましてや偽の婚約者になろうなどとは思わないだろう。

　その自惚れのせいもあって唇を奪ってしまったわけだが、彼女は俺の予想以上に戸惑っていた。順番はあきらかに間違っているし先走りすぎたよなと、今は後悔と反省の気持ちが大きくなってきている。

「……失敗だったか」
「えっ」

　深刻なため息混じりに呟くと、研修医がギョッとしてこちらを振り向く。

「え、先生？　失敗って……」
「やっぱりまずかったよな、あれは」

　中途半端なことをしないで、いっそ想いを伝えていればよかったのかもしれない。恋愛の類になるとてんでダメな自分に辟易し、壁にもたれて頭をこつんとくっつけた。

　そんな俺を見て、研修医はなぜか青ざめていく。「そんな、まさか……い、医療ミス!?」と小さく叫んだ彼の勘違いに気づいた時には、彼は三浦さんに助けを求めにいっていた。

　なんとか誤解を解いて三人で院内を歩いている最中も、三浦さんは声を出して笑っている。一緒に組むことも多く、俺より若いが信頼できる仲間である彼女は、あまり喜怒哀楽を表に出すタイプではないので珍しい。