余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
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いったい何年もったいないことをしていたのだろうかと、思い知らされたのは十日ほど前だ。
天乃に偽の婚約者になってもらい、彼女を家に招いた数日後。午後十時頃、天乃が作ってくれたハンバーグが最高にうまかったなと思い返しながら軽く晩酌をしていた時、怒涛の勢いでインターホンが鳴り始めた。
こんな時間に誰だ?と眉をひそめてモニターを確認すると、なにやら怒った顔の慎太がいる。何事だろうかと中へ通し、玄関のドアを開けた途端に胸倉を掴まれた。
「なにをやってんだお前はー! このばかちんがぁ!」
「え、なに、どっかの先生?」
般若のごとく顔を歪めてキレている慎太に、俺はわけがわからずされるがまま。シャツから手を離さない彼を、とりあえずリビングへ誘導したところでようやく解放された。
慎太も酒を飲んでいるようだったが、泥酔している風でもない。自分を落ち着けるようにひとつ息を吐き、コーナーソファにどかっと腰を下ろして俺を見上げる。
「天乃のことだよ。偽装婚約ってなんなんだ? あいつをたぶらかしてるわけじゃないだろうな」
「……聞いたのか」
「ああ、ついさっき」
俺たちのことは、慎太たちには特に隠すつもりはない。おそらく飲みながら天乃が話して、こいつはその勢いでここへ来たんだろう。