余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 丸顔で細い黒フレームの眼鏡をかけた五十六歳の部長は、私に気づいてパソコンから目線を上げた。

「おはようございます。急きょお休みをいただき、ご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 頭を下げて体勢を戻すと、彼は神妙な瞳でこちらを見つめていた。ひと呼吸間を置いて、やや憂いを帯びた笑みを浮かべる。

「おはよう、清華さん。具合は大丈夫かい?」
「今日はバッチリです!」
「そうか、よかった」

 にこっと笑みを浮かべてみせると、部長の表情も少し安堵したようにほころんだ。

 厳しい時も多いけれど、実は部下思いな彼。休まなければいけなくなったと連絡した時も私をすごく心配してくれて、いい上司に恵まれてよかったとつくづく感じた。

 感謝したいことはそれだけではない。私は表情を引き締め、しっかりと頭を下げる。

「部長、こちらの頼みをきいてくださって、本当にありがとうございます」

 休んでいる最中、私は部長にあるお願いをしていた。会社に迷惑をかける可能性がなきにしもあらずなお願いだったので、承諾してくれた彼には頭が上がらない。

 部長も眼鏡の奥の瞳を真剣なものにして、私をまっすぐ捉える。

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