余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「本当にごめん。パーティーは俺と一緒に天乃も抜けるって言っておく。ひとりで帰れるか?」
「帰れるよ! 子供じゃないし、夏くんと違って方向音痴でもないから」
「あ、ひどい……」

 軽口を叩きつつ、過保護な俺に呆れ気味に笑う彼女の頭に手を伸ばす。

「大事な話はまた後日な。絶対埋め合わせする」

 延期になってしまいもどかしさを抱きながら、ふわっとした髪をそっと撫でた。天乃はすぐに真面目な面持ちになって頷く。

「うん。私のことは気にしないで、患者さんを救ってあげてね」

 意識を医者へと切り替えてくれる言葉に俺も頷き、自分の荷物を残してある会場に一旦戻るべく走り出す。彼女は凛とした笑みをわずかに浮かべて見送っていた。

 離れがたいのはいつものことだが、今日はやけに後ろ髪を引かれる。さっきのりほさんや天乃の様子が気になって、ひとりにしてはいけないような、漠然とした胸騒ぎを覚えるのだ。

 しかし、助けを必要としている患者を見捨てる選択肢など、俺の中には存在しない。邪念を捨ててビルを飛び出し、病院へと急いだ。


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