余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 指輪を身につけているだけで心強く感じ、パーティーも無事に乗り切れそうでほっとする。ただ、夏くんの〝大事な話〟っていったいなんだろう。

 もう少し偽装の関係を続けてほしい……とか? いや、続ける理由が浮かばないし、きっとこの関係はここまでよね。

 幸せな時間が終わりに近づいていることを実感すると、胸が苦しくなる。でもこれは決めたことだし、素敵な思い出もたくさん作れた。それで十分だと改めて言い聞かせ、指輪をそっと撫でてトイレを後にした。

 ところが、会場に戻ろうと廊下を歩き始めた直後、ふと壁にかけられた案内図を見て違和感を覚えた。

 え? なにこれ……日本語、だよね?

 このフロアのどこになにがあるかが記されているはずなのに、なんと書いてあるのか読めない。私が向かおうとしている会場の名前も、ただ文字が羅列しているだけに見える。

 胸騒ぎがして、念のためバッグの中に入れていた招待状を取り出してみる。

 それを見て愕然とした。文章がまったく読めないのだ。

 なんで?と軽くパニックに陥りそうになった時、「あ、清華さん」と呼ばれてぱっと顔を上げた。

 振り向くと、長い髪を編み込みにしたお姫様のように可愛らしいりほさんもトイレから出てきていた。反射的に笑顔を作り、会釈をして〝どうも〟と返そうとした瞬間にまた異常に気づく。

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