30歳の誕生日にいつも通っているお弁当屋さんの店員さんとワンナイトしてしまったので2万円置いて逃げてきた

6. 彼の仕事

一緒にシャワーを浴びて、ベッドで甘やかされて。
言葉でも気持ちを確かめあい、綾羽は優一と正式に結婚前提として付き合い始めた。

翌朝朝食を食べながら、一応お互い家族構成の話をした。
優一のあのアルバイトは副業で、本業は個人事業主で業務委託のエンジニアというのも聞いた。

「なんで普通に収入があるのにお弁当屋さんのアルバイトなんてしてるんですか?」

優一は苦笑いした。

「ああ……あれがないと、1ヶ月くらい外に出なくなっちゃうんで」
「1ヶ月?」
「俺、1日中仕事とゲームで引きこもって、食べ物は全部宅配で生活用品は通販で……とか平気でやるんで。運動不足と、太陽の光浴びなさすぎて1回鬱になりかけました」
「ええっ……!?」
「あの店のオーナーがオンラインゲームの知り合いなんです。俺の様子が変って気付いて、色々話してたら平日のランチだけ手伝って欲しいって言われたんですよ。日中に用事ないとすぐ昼夜逆転しちゃうし、週に2、3回、2時間拘束ならちょうどいいから、飽きるまで続けようと思って」

まともそうな人だと思っていたのに、優一は引きこもり予備軍で、生活力が低い男らしい。そういえばホテルで起きた時も、朝は全く起きる気配がなかったと思い出した。
綾羽は呆れて笑った。

「私も同じかも。仕事がないと朝起きないし、休日は2日間一歩も外に出ないでスマホ見てるだけで、食事抜いちゃうこともあります」
「結婚したら二人で朝からずっとベッドにいるかもしれませんね。どっちも起きてこないから昼夜逆転しちゃうな」
「土日で朝ごはんの役割分担しましょうか。私はトーストと目玉焼きくらいなら作れますよ」
「いいですね。俺は味噌汁だけは作れます」

二人ともあまりレベルに違いはなさそうで、顔を見合わせて笑った。

出会ってからは半年以上立っているが、関係が変わったのはつい最近で、お互いのことはよく知らない。身体の相性は多分良い。

それなのに、綾羽は優一と一緒に過ごす時間はこの先もあまり変わらないだろうなと想像して、隣にいることに違和感は感じなかった。

「長谷さん、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ」

優一がにこっと笑う。綾羽が好きな、目元から笑みが伝わる優しい微笑みで、見ていると癒される。これからランチタイム以外にもこの笑顔が見られると思うと、綾羽はこれからの生活が楽しみになった。
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