どちらとの恋を選びますか?【前編】~元彼vs同期の秘めたる愛の行方
 「なぁ、春風」
 冬月商事を出てからも、ずっと陽先輩のことが頭から離れず、夏目君の声が届かなかった。

 「春風?凄く顔色悪いぞ、大丈夫か?」
 ようやく我に返って、夏目君の声に気が付いた。

 「う、うん、大丈夫。ちょっと寝不足かな…」
 「また遅くまで、本、読んでたんだろ?」
 「さ、さすが、よく分かってるね」
 「当たり前だろ?今、春風のこと1番知ってるのは、俺だからな。あっ、でも…」

 丁度、信号待ちで止まって、真剣な顔つきに変わった夏目君が、私の方を向いて、
 「彼氏がいたら、別だけどな」
 見つめられる真剣な眼差しに、押し殺す低い声…
 思わず息を呑む。

 「い、いないわよ!いたら花火大会、一緒に行かないから」
 「そうだな、やっぱり彼氏がいたら、一緒に行ってるよな」

 信号が青に変わり、笑顔になった夏目君は、車を走らせた。

 夏目君に「冬月商事の担当を外れたい」と、言うことも出来ない。

 陽先輩は顧客先の人事部長。
 仕事でしょ!過去の感情に流されちゃダメ!
 そう言い聞かせ、心の蓋を閉じた。
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